子供の頃、雷が鳴り響くと無意識にへそを手で隠したことはありませんか?
そんな行動は一体どういう意味があるのでしょうか。
この記事では、へそを守るという行為の由来と、その背後に隠された意味に迫ります。
空の支配者、雷神
昔から、雷を操るとされる「雷神(らいじん)」や「いかづちの神」は、人々に深く尊敬されてきました。
この神は雲の間に住んでおり、雷を鳴らす力を持つと言われ、親しみを込めて「カミナリ様」とも呼ばれます。
神道や日本の伝統的信仰では、
「雷電(らいでん)様」
「鳴神(なるかみ)」
など、様々な名前で知られています。
雷神の描かれ方には特徴的な点があります。
・雲の間に住む
・連なるアーチ形の太鼓を背負っており、それを叩くことで雷や稲妻を起こす
・虎の皮を使った褌や下着を着用
・頭には角が生えているか、牛の角をつけている
外見は、よく鬼に例えられます。これは、雷の強烈な音や光が人々に恐れや畏敬の念を抱かせるためです。
例えば古事記や日本書紀には、様々な雷神が登場します。
火雷大神(ほのいかづちのおおかみ)
特に有名なのが、火雷大神(ほのいかづちのおおかみ)です。
この神は、雷だけでなく水や稲作の保護者としても称えられています。
「雷神(いかづちのかみ)」
「八雷神(やくさいかづちのかみ)」
などの名前で知られています。
伊邪那美命(いざなみのみこと)が火の神を産んだ際に受けた傷が原因で亡くなり、その後黄泉の国に旅立ったとされる古事記の記述によると、彼女の腐敗した体からは、
胸に火雷(ほのいかづち)
腹に黒雷(くろいかづち)
女陰に拆雷(さくいかづち)
左手に若雷(わかいかづち)
右手に土雷(つちいかづち)
左足に鳴雷(なるいかづち)
右足に伏雷(ふすいかづち)
というように、八柱の雷神が生まれたと言われています。
これらの八柱を総称して「火雷大神」と呼ぶわけです。
※「柱」は、神様を数える際に使われる単位です。
建御雷神とその多面性
雷を司るだけでなく、剣の技術や勝利を願う心を表す神として崇められる建御雷神。
相撲の神話的起源にもその名を連ね、古事記では建御名方神との力比べの逸話が語られています。
この神には、「建布都神」「豊布都神」などの別名もあります。
菅原道真と雷神との結びつき
845年から903年の間に生きた菅原道真は、没後に雷神としての地位を獲得しました。平安時代の著名な官僚であり学者であった道真は、その卓越した能力で急速に昇進しましたが、その成功を妬んだ者たちによって京都から福岡の太宰府へ追放され、903年にこの世を去りました。
道真の死後、彼を追放した人々が次々と不幸に見舞われたことから、その怨霊が原因だという恐れが広がりました。この怨念を鎮めるため、919年には彼の墓の上に太宰府天満宮が建立され、その後も災害が続いたため、947年には京都に北野天満宮が建てられました。
以降、大きな災害が起こるたびに、道真を祭る神社が日本各地に建立され、落雷などの天災も彼の怨霊の仕業と見なされるようになり、「天神(雷神)」として崇拝されるようになりました。雷を避けるために唱えられる「くわばらくわばら」という言葉は、道真の領地であった桑原が雷を受けたことがないという伝説に基づいています。
雷が鳴ったらなぜへそを守るの?その背後にある伝統とは
子どもの頃、雷の音がすると「カミナリ様がへそを取りにくるぞ!」と言われて、慌ててへそを手で隠した経験はありませんか?
雷が鳴る時にへそを隠すという習慣は、
・カミナリ様にへそを食べられないように
といった理由からきているとされています。これは、雷によって人の魂がへそから引き抜かれるという古い信じられ方に基づいています。
魂を取られた人は命を落とすとされ、「カミナリ様にへそを奪われる」「カミナリ様にへそを食べられる」と言われるようになりました。このような言い伝えが、雷が鳴る時には生命を守るためへそを隠すという習慣へとつながっています。
雷とへそのつながりにはいくつかの理由が考えられています。
体調管理のための知恵
特に夏には雷がよく発生します。
夏は暑く、大気が不安定になりやすい時期で、急な雨や突風、雷が発生しやすくなります。
雷が去った後には気温が急に下がることもあります。
このような急激な気温の変化で、子どもたちはお腹を冷やしやすく、その結果、体調を崩しやすくなります。
そのため、「雷が鳴ったらへそを隠せ」という言い伝えが生まれ、夏でも子どもたちに上着を着せてお腹を守るようにしたり、手でへそを覆うなどして体を冷やさないようにするという習慣があると言われています。
雷から身を守るための知恵
雷は高所に落ちやすい性質を持っています。直接雷に当たると、体内に大量の電流が流れ、生命の危険に晒されることもあります。へそを手で覆う行為は、無意識に体を前かがみにさせ、身体を低くすることで、雷に直撃されるリスクを減らす目的があると言われています。
ただし、周囲に何もない開けた場所では、体をどれだけ低くしても安全は保証されません。そのため、雷の音が聞こえなくなるまで、建物や車の中など安全な場所に避難することが大切です。
このような行動は、雷から自身を守るための論理的な考えに基づいています。
古くから、「カミナリ様にへそを取られないように」と子どもたちに伝えられてきたのは、体を冷やさないようにするという配慮だけでなく、雷の危険から身を守るための知恵と経験が反映されていると考えられます。この伝統は、雷に直接触れるリスクを避け、安全を確保するための方法として受け継がれてきました。